緑黄日記

水野らばの日記

ドジっ子メイドになるしかない

 

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なんたる失態だ。僕は自室のドアの前で途方に暮れていた。

 

先日、カフェでパフェを頬張ってから、ほくほく顔で我が根城であるアパートに帰った。起居する部屋のドアの前に立ち、ポケットから鍵を取り出して鍵穴に挿そうとした瞬間、ドアポストに郵便物が挟まっていることに気が付いた。以前、通販で購入した書籍が届いたのだ。厚めの書籍だったこともあり、配達員さんがポストの奥までしっかりと押し込めなかったのだろう。引き抜くこともできなかったため、僕は鍵を持った手で郵便物をポストの中へと押し込めた。その時である。鍵が郵便物と一緒にポストの中へとするりと吸い込まれ、チャリンと音をたてた。

 

そういうわけで僕は自室のドアの前で途方に暮れていたのである。さっきまで鍵を手にしていたのに、日の打ちどころのない不注意でドアを開ける資格を一瞬にして失ったのである。想像力がとにかく無い。何?調子乗ってカフェで抹茶パフェを食べた罰?一通り途方に暮れてから管理会社へと電話した。

 

 

人生が下手すぎる。

 

僕は人生が下手すぎるのである。遍在する真人間様たちに追いすがろうと、一層の努力を重ねているのだが、有り余る人生の下手さが全てを帳消しにし、剰え借金として重くのしかかっている。周囲の人間が普通にこなしていることが全くできない。不器用とも言う。人生の下手さに直接効く薬が発売されたら確実にオーバードーズしてしまう。

 

例えば、お風呂場で踊っていたらふとした拍子に蛇口を根本から折ってしまう。行き先を確認せずに乗ったバスが知らない交差点で曲がる。木に引かかったボールを落とそうと投げたサンダルが木に引かかる。「蚊に刺された痒みは50度以上のお湯をかけると和らぐ」と聞いて熱湯をかけてしまい火傷する。両手で重い段ボールを抱えている時にドアを開けようと片手を離してしまい、段ボールを落とす。僕が段ボールを落とす前に「手は3本ありませんよ」と教えてくれる妖精的キャラクターが僕の周りを旋回していて欲しい。

 

この人生の下手さは僕の危機感の目盛りが「余裕」と「助けて」のふたつしかないことに起因する。途中の段階、例えば「やや危ないかも」「ここがギリギリ」など間にあるべき目盛りがないため、さっきまでなんてことはなかったのに気がつけば一切が手遅れになっている。鍵を持ったままの手をドアポストに突っ込んだところで「鍵を落としそう!危ない!」というアラートが鳴らないのである。パニック映画なら真っ先に死ぬ。

 

この人生の下手さを何かに活かすことができないのだろうか。人の性質とは容易に変えられるものではない。僕が「お風呂場で踊ると蛇口を折ってしまうかもしれない」と想像を巡らせるような人間になるには人生は些か短すぎる。長所と短所は表裏一体であり、この一見どうしようもないくらいマイナスな性質をプラスに転じることはできないだろうか。人生の下手さを変えられないのであれば、これを生かせる道を探すのが賢明である。

 

もう、メイド喫茶に就職して、「ドジっ子メイド」として活躍するしかない。

 

人生の下手さ、これはつまりは「ドジ」である。可愛らしい失敗を繰り返し、周囲の人間の庇護欲を刺激し、愛されながら生きる道があるのではないか。そう、「ドジ」を生かす仕事、メイド喫茶の「ドジッ子メイド」になれば良いのだ。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

「水野ちゃん、今日もかわいいね。水野ちゃんのためだったら、毎日通っちゃうよ」

「ご主人様いけませんよ。ご主人様はお忙しいのですから」

「あはは、そういえば、なんで片足だけ裸足なの?」

「これはですね、先ほど木に引かかったボールを落とすために靴を投げたら靴が木に引かかってしまったのです」

「そう。今日もフル装備の水野ちゃんを見ることが出来なかったね」

 

 

「はい、お待たせしました。こちら『萌え萌えオムライちゅ♡』です。それでは今から私がケチャップでお絵書きをして魔法をかけますね」

「ごめん、その前にいい?なんで水野ちゃんビショビショなの?」

「これはですね、先ほど、ご主人様への愛を込めて踊りながらオムライスを作っていたら蛇口を破壊してしまって、水が吹き出して止まらなくなってしまったのです。ほら、ご主人様の足元にも水が迫っていますよ。それでは猫ちゃんの絵を描きますね〜」

「やっぱり水野ちゃんはかわいいなあ」

 

 

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