緑黄日記

水野らばの日記

お終いの人の趣味

 

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日曜日のお昼、パソコンを開く。

 

賃貸物件情報サイトを開いてお部屋探しをする。現在お付き合いしている彼女と同棲することにしたのだ。僕らは大学時代に軽音サークルで出会った。順調に愛を育み、今年で付き合って4年目である。付き合いも長くなるのでそろそろ同棲しようかということになった。僕が話を持ちかけると彼女は嬉しそうに快諾してくれた。

 

彼女とふたりで住むお部屋を探す。僕も彼女も大阪市内で働いているため、場所は大阪市内かその周辺が良いだろう。また、我々は一端の会社員であるため経済的にある程度はゆとりがある。家賃は8万円以下であれば良い。お互いの部屋と、共用スペースとしてリビングダイニングが欲しいから間取りは2LDKかそれ以上、彼女が料理を趣味としているのでキッチンは広め、あと食洗機が置くスペースがあるといいな。

 

 

という設定でお部屋を探している。

同棲する予定もないし、大学時代から住んでいるこの安アパートを抜け出すつもりもない。彼女もいない。ついでにいうと大学時代には彼女おろか友人が一人もできなかった。

 

架空の人生を設定して各地でお部屋探しをして楽しんでいるのだ。もう趣味の領域まで足を踏み入れてしまったかもしれない。ある時は都内の港区OLになり、ある時は脱サラして長野で喫茶店を営む青年になり、ある時は人気女性アイドルになり、ある時は隠居先を探す老夫婦になっている。片手には安い缶チューハイである。正気でこんなことをやっていられるわけがない。自分のことながら何故こんな状態になるまで放置したのだ。

 

架空の人物になりきり、その人生について思いを馳せる。そうすることで相対的に自分の人生について考える時間や機会が減る。有り体にいえば現実逃避である。自分の人生に100パーセント感情移入するには人生はあまりにも辛すぎるのだ。小説や映画などのフィクションを楽しみ、アイドルやスポーツ選手を応援するのもこの類だろう。一緒である。みんな大好き『余命幾ばくもない難病の薄顔イケメンと若い女の子との普通の恋を描いたマジ泣ける映画』でマジ泣くのと一緒である。そういうわけで大丈夫である。休日にお酒飲みながら架空の彼女との愛の巣を探していても大丈夫である。

 

目当ての物件をいくつか見繕い、満足してパソコンを閉じる。どなたかいいカウンセラーの方を知りませんか。